SPECIAL

STAFF INTERVIEW

田中将賀

クリエイティブ事業部 演出・作画ルーム 顧問

諦めずに続けることで、
見えてくるものがある

絵描きとして食べていく上で、安定して稼げる職種が唯一、アニメーターだった

絵描きとして食べていく上で、安定して稼げる職種が唯一、アニメーターだった

僕は最初からアニメーターを目指していたわけではなく、学生時代は宇宙物理に興味があったので理系大学に進学しました。ただ、勉強についていけず、その時初めて挫折を経験したんです。この先に何をやっていいのか分からなくなり、バイトや麻雀に明け暮れる日々を過ごしていました。
そんな中、高校生のころ漫画家を目指していたこともあったので、立ち返ると自分には絵を描くことくらいしかないんだと思い、そこから大学を辞める前提で動き始めたんです。ただ、当時出版社に作品を送ったりもしていたんですが鳴かず飛ばずで、自分に才能がないのも分かっていました。
じゃあ、お金になる絵描きの仕事はなんだろうと探した時に、見つけたのがアニメーターの仕事です。決して単価が高いわけではないけど、1枚動画を描けばその分のお金はもらえる。仕事として、安定して絵で稼げるのが唯一アニメーターだと思いました。その理由だけでアニメーターになろうと思い、大学を辞めて専門学校に入り直しました。

新人時代が一番アグレッシブだった

新人時代が一番アグレッシブだった

専門学校を卒業し、最初にアートランドというアニメーション制作会社へ入社しました。
僕には大学を中退してからアニメ業界へ来たという負い目があり、ストレートで高校、専門学校を卒業してアニメ業界に来ている同期よりも2つ年上だったんです。
なので新人時代は、とにかくこの会社で認められるしかない。じゃあ、そのためにどうすればいいのかとものすごく考えていました。
「今、この作画フロアで一番力がある人は誰か」「絵が上手い人は誰か」「この人に名前を覚えられれば、いい仕事がもらえるのではないか」と考え、積極的にコミュニケーションをとるようにしていました。技術的な面で先輩にアドバイスを聞いたり、皆が帰宅した後の机を覗いてどんな絵を描いているのか勉強したりと、とにかく必死でした。
それだけ自分には才能がないと思っていたので、ないなりに努力は必要だと思って行動していました。それは今でも言えることで、SNSなどで人の絵はなるべく見るように心がけています。

諦めずに続けることで、見えてくるもの

アニメーターになり、2、3年動画を経験し、原画に上がり、作画監督になった時、僕は自分の仕事のスピードがすごく遅いと感じていました。
1週間に数日しか家に帰れないことも多く、それでも全然手が追いつかない。周りの先輩たちは毎日家に帰れていて、ノルマもこなしている。なんで自分だけできないんだろうと悩んでいました。
当時の社長にも、「こんな仕事のやり方をしていたら、5年先にはもう作監の仕事はしていられないぞ」と釘を刺され、自分にこの仕事は向いていないんじゃないか、アニメーターを辞めたほうがいいんじゃないかとも思っていました。
そのころ会社で『十兵衛ちゃん2』のグロス請け(他社のシリーズ作品の1話数だけを丸々請け負うこと)をやらせていただいていて、チーフディレクターの長濵博史さん、キャラクターデザイン/総作画監督の馬越嘉彦さんとお話しする機会があったんです。悩んでいる僕に、「田中くんはこのままでいいんだよ。君のやっていることは間違ってないから」と言ってくださいました。
それまで自分がやっていた仕事に対してメインスタッフから褒められたこともなくて、ちゃんと自分の仕事を見てもらえたと思った瞬間は、その時が初めてでした。その言葉がきっかけで自分に自信がもてるようになり、今に繋がっていると思います。
そこから不思議なことに、実はいろんな人が自分の仕事を見てくれていたことが徐々に分かってきたんです。それこそ『ダーリン・イン・ザ・フランキス』監督の錦織くん(錦織敦史)との最初の出会いは、当時僕が参加していた話数の『舞-HiME』を見て「この人と話をしたい」と言ってくれていたことがきっかけでした。そうやって後々分かってくることが多いので、諦めずに続けていたことは良かったと思います。

仕事に対して真摯でありたい

仕事に対して真摯でありたい

アニメーションを作っていてやりがいを感じるのは、やっぱり作品が完成した時です。
自分たちが作った画が動いた瞬間の喜びはとても大きいですね。なので、テレビで1話が放送される時に、視聴者の方に見てほしいと言える作品が作りたいといつも思っています。
逆を言えば、自分の仕事に対して後悔が多い作品が放送されるときほどの地獄はないです。
キャラクターデザインと総作画監督を兼務でやらせていただくことも多いのですが、時間や物量、内容によって、自分がキャパオーバーになってしまい、全てのカットをチェックできないと分かった時はつらいです。それでも、駄々をこねる時間があるなら、限られた時間の中でやるしかないんですけど。
ありがたいことに、自分の関わった作品を見て業界に入りましたと言ってもらえることも多く、そういう意味で過去の自分の仕事を思い出されることも多いです。
その時に、素直に喜べず嫌な思い出しか出てこないなんてもったいないので、「見ていました」と言われた時に「おぉ!ありがとう」と素直に返せるくらいにはなっておきたいと思って仕事をしています。だからこそ、仕事に対して真摯でありたい。不義理はしたくない。ズルもしたくないですね。

自分に合う環境を探すこと

自分に合う環境を探すこと

アートランドはかつて元請け(企画から制作までを請け負う)もおこなっていたので、アニメーションを作る基本が備わっており、スタジオの中に仕上げの部署や撮影台のノウハウが残っていたんです。僕はいい仕事をする人は自分の本来の仕事の枠から、ちょっとずつ出たところもフォローできる人だと思っています。なので、制作工程の各部署が近くにあり、その仕事が見れるのはキャリアアップのためにもすごく役立つと感じました。
CloverWorksにも作画だけではなく、仕上げ、美術、撮影といろんなセクションが会社の中にあります。制作部にも複数のプロデューサーがいて、原作もの、オリジナルもの、テレビシリーズから劇場作品など、さまざまな仕事が常に動いています。そして、それに携わっているトップクリエイターと接する機会もあり、たくさんの刺激が受けられる良い環境だと思います。
また、食べていくためにはある程度の安定は必要だと思っていて、最初の会社(アートランド)を選んだ理由の一つとして、最低補償給がある会社だったということも大きな要因でした。仕事をやること自体はどこの会社に行っても同じです。しかし、職場環境というのは大事で、通勤の利便性、作業環境、文房具や紙などの備品支給制度など、自分にとって働きやすい環境かどうかも会社選びをする時に必要なことだと思います。

アニメーターを目指す人に対して

アニメーターを目指す人に対して

アニメーターに限らず、これは表現者全般に言えることですが、作品には必ず自分が出ます。
例えば、キャラクターの顔しか興味がないとか、どう思って描いたかというのは、絵を見ると全部丸裸になってしまうんです。なので、スポーツ、遊び、勉強や旅行……となんでもいいですけど、さまざまなことを自分にストックしておく。人生の経験値を貯めることが必要です。
体力面でいうと、アニメーターは常に机に座り続けて、絵を描く仕事です。1日7、8時間絵を描き続けて自分が耐えられるのか、というのをシミュレーションしておくといいと思います。
また、最低限の国語力は必要です。絵コンテではもちろん絵で指示が描かれていますが、その横にある文字の注釈にも大事なことが多く含まれています。それを言葉どおり捉えるのではなく、物語の流れを考えて解釈すること事が大切です。そのために小説を読んだり、より多くの物語に触れようとする意識が、アニメーターの表現力に直結すると思います。
アニメーターに必要な能力はじつは多く、ハイスペックなことも求められたりしますが、それらを全てこなしていかなくてはなりません。
また、アニメーションは集団作業で作り上げていくもので、基本的な挨拶やコミュニケーション能力といった社会人としての振舞いも必要になります。そういったことは、学生時代にバイトや部活を通して経験しておくといいと思います。

Q&A
  • 田中さんのキャラクターの表情や仕草が好きなのですが、私生活で面白いと思った人や動きなどをどんな風に膨らませて仕事に繋げていますか? 観察するときのポイントなどはありますか?
    人が自然とやっている仕草を見ることに関しては敏感な方で、前髪を触る仕草や癖なんかはつい観察してしまいます。ドラマや映画でも、小物の扱い方は気にして見てしまいますね。コップを持つという動作だけでも、温かい物と冷たい物で変わってくる。社交場で人に見られているときと、家に1人でいるときの姿勢の違いなど、意識して見ています。
    自分が納得いく芝居をさせるには、キャラクターにどう演じさせたらよいか考えることが多いです。そのためには自分の中で物事を掘り下げていくことが必要で、急に「いい芝居描かなきゃ」という漠然としたものに突っ込んでといくと、ドーンと跳ね返されて終わってしまう。何をもっていいとするかは、そういったことを考えることで全然違うと思います。
  • まだ業界歴が浅く、同期で活躍している人に対して焦りや劣等感を抱いてしまうのですが、どう向き合っていくべきでしょうか?
    人それぞれだとは思いますが、そこからは逃げられないと思っています。ただ、弱いときに無理に立ち向かってしまうと余計に傷つく。真面目な人ほど自分を追い込んでしまい、会社に来られなくなってしまいます。
    僕は就職で東京に出てきた最初の10年ほど、ルームシェアをしていました。相手が近い業界だったこともあり、そこでお互いの会社のグチを言い合ったりして、同志と共感しあえるという空気感が自分にとっては楽でよかったです。
    アニメーターは他の絵描きの仕事と違い、同じ作品で多数の絵描きが関わり、会社に入れば同じ屋根の下で作品を作っていきます。そういう共同制作のチーム感を育める場として、仲間や同期を大事にするのが大切ではないかと思います。
    ただ、会社はあくまで仕事場なので、変に友達を作ろうとするのはよくないとも思っています。趣味の話や好きな話で盛り上がってもいいけど、ちゃんとそれが仕事に直結するようなコミュニケーションをとることが大事だと思います。仕事場で作るべき関係値は、友達ではなく仕事仲間です。
  • 仕事が忙しいと、趣味の絵を描く時間をうまく確保できないのですが、どのように両立されていますか?
    仕事をしている以上、趣味の時間というのは、自分で作るしかないですね。何かを犠牲にして作るのが嫌であれば、その程度のものです。
    僕は寝る間を惜しんで、家でハマっているゲームをやったりもしますが、要は自分の中で何を一番とするかで、それはその都度変わればいいと思っています。もちろんやるべきことはやってですが。
  • アニメーターとして絵が描けるのはもちろんですが、その他に、アニメ業界で長く生き残るために必要だと思うことは何ですか?
    仕事が好きになれるかどうかだと思います。
    作品が好きでアニメ業界に入る人が最初に躓くのはそこだと思っていて、作品は好きだったけど、この仕事は好きじゃないかもと思って辞めていく人は多いです。
    作品が好きで業界に入っても、その作品がやれるとは限らないですし、本質的には仕事を好きになって、その上でどこかに楽しみを見つけられないと続けていくことは難しいと思います。
  • 20代のころ、今の自分は想像されていましたか?
    全く予想していなかったです。むしろ、若いころに一番怖かったのは、この業界にいられなくなっていることでした。僕はサラリーマンには向いていないと思い込んでいたので、モチベーションをあげて打ち込めるものはこの仕事しかないと考えていました。だから、これで本当に続けていけないならやめたほうがいい、生活できない暮らしが続いたら死ぬしかないと思っていて。でも、実際に仕事を始めたら仕事自体を好きになれたので、本当に良かったです。
    アニメーターになったころはキャラクターデザイナーになりたいとかは考えていなくて、頑張って作画監督になろう、会社の中で認められるようになって、いいお金がもらえる仕事がやりたいということしか考えていなかったです。
    それこそ当時のアニメスタイルで、同年代のすしおさんや錦織くんなどGAINAXの若手スタッフが特集されていたんです。でも、僕は「すごい会社にはすごいアニメーターがいるんだな」というのを下から見上げるという感じでしたね。そのときはハングリー精神もなかったので夢は見ていなくて、自分の仕事を頑張って、できるところまでいけたらいいなと思っていました。
    それは今でも言えることで、今やっていることを大事にしないと先がないと思っています。今の一歩が3年後に続いていると思うしかない。目標に向かって歩いているわけではなく、とりあえず目の前に一歩出しておけと思って仕事をしています。
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INTERVIEW

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