SPECIAL

STAFF INTERVIEW

辻 俊一×賀部匠美

制作グループ

アニメーションプロデューサーに至るキャリアと現在の働き方

業界に入った経緯や、キャリアの始まりについて

辻:私は一般の大学の経営学部出身で、当時アニメの仕事については、監督や演出、原画マンといった役職名すら知りませんでした。ただ、就活を進めるうちになんとなく映像を作る仕事がおもしろそうだと思い、2005年の4月にAICというアニメ制作会社に入社しました。1年目にオリジナルアニメで制作進行を担当し、そのあと制作進行を2年ほど経験して、入社3~4年目のころに制作デスクを務めました。
賀部:私は学生時代クリエイター側志望だったので、美大のデザイン科を専攻していました。在学中、授業で実写の映像制作に参加する機会があり、1人で作品に向き合うのではなくいろいろな人の手を借りてチームで制作する、という工程に興味が湧きました。そんななか就活の時期を迎え、ゼミの先生に「おもしろい会社があるから受けてみたら?」と勧められたことがキッカケで入社したのが、とあるアニメ制作会社でした。私は実写の映像を制作したかったので、ゼミの先生から「その会社はいずれ実写映像も制作するらしい」と聞いて受けたわけですが、一向に実写映像制作を始める気配はありませんでした(笑)。アニメの仕事に就くにあたっても、最初は演出などクリエイター職を志望していましたが、演出になるためにはまず制作進行を経験して作品全体の流れを知ってから転向するほうが良いとアドバイスを受けたので、まず制作進行としてキャリアをスタートしました。その会社に入社したのが2005年の4月なので、辻さんとは完全に同期ですね。
辻:2人ともそれぞれ別の会社からA-1 Picturesに移ってきた転職組ですが、この業界に入ったのは同じ年だったんですね。

2005年から約20年弱のキャリアについて

2005年から約20年弱のキャリアについて

辻:制作進行から始まり、入社3~4年目に制作デスクになったことは先ほどお話しましたが、その後も制作デスクとしていくつかの作品に関わり、8年目あたりで『PERSONA3 THE MOVIE』という作品に参加しました。この作品は劇場アニメとして4本制作したのですが、2本目からはAICではなくA-1 Picturesで制作することになり、AICで『PERSONA3 THE MOVIE』を制作していた班が、A-1 Picturesで携わることになりました。その際、制作デスクとプロデューサーを兼ねる形になったので、私の初プロデューサー作品は『PERSONA3 THE MOVIE』の2作目(『#2 Midsummer Knight's Dream』)となります。その作品が終わったあと正式にA-1 Picturesに入り、2018年の会社分割を経て現在はCloverWorksに在籍しています。
賀部:私は最初に入社した会社で2年ほど制作進行として勤めました。制作デスクを担当できるお話もいただいたのですが、お仕事の方針が合わないこともあり退社する選択をしました。そのころ『おおきく振りかぶって』などの制作でA-1 Picturesの名前を知り、「新しくて綺麗なオフィスで、これからの成長が期待される会社」という噂を聞いていたので、そういう会社で働きたいと思い中途採用で応募しました。心機一転ゼロからキャリアを積み直すつもりで入社したのですが、前の会社でお世話になった演出さんや作画監督さんがA-1 Picturesでもお仕事をされていたので、その方たちから私の経歴が社内に伝わり、入社後すぐに『鉄腕バーディー DECODE』という作品で制作デスクを担当することになりました(笑)。そこから制作デスクとしてのキャリアが始まり、『黒執事Ⅱ』や『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』も担当させていただきました。『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』はありがたいことに評判が良く、ふたたび、超平和バスターズ(長井龍雪さん・岡田麿里さん・田中将賀さんの3人を指すチーム)のみなさんとオリジナルの劇場作品を制作することになったのですが、「今回はデスクではなくプロデューサーを」と前プロデューサーから譲り受ける形でお話をいただきました。それが『心が叫びたがってるんだ。』という作品で、そこからプロデューサーとして仕事をしています。

この業界を続けることにした理由

賀部:制作進行時代、作品完成後のエンドロールで自分の名前を見た時の感動がすごかったんです。制作期間がどんなに大変でも毎回それで気持ちがリセットされることと、目の前の仕事を頑張ってひたすらこなしていたら、ありがたいことに評価していただけるようになり、それがやりがいにつながっていったのかなと思います。
辻:やはり、のめり込みやすい業種だとは思います。働いている間には当然いろいろありましたが、辞めるという選択肢はありませんでした。深みにハマっていっていたんでしょうね(笑)。仕事にのめり込んでいたら自然とキャリアが積まれていき、いつの間にか部下ができ、さらに家族ができて、気がつけば続けていた感じです。
賀部:振り返ると、ただ「続ける」という単純なことがとても大事なことだったと感じています。
辻:制作進行の新卒採用時に感じるのは、皆さんが本当にアニメ業界に夢を抱いて志望してくださっているということです。優秀な方ばかりなので、いま自分が新人だったら入社することができていたかわかりません。ですが、「続ける」ことができたので、いまこうしてインタビューを受けることができていると思います(笑)。
賀部:そうですね(笑)。

制作部門の、制作進行、制作デスク、プロデューサーという3段階の業務について

制作部門の、制作進行、制作デスク、プロデューサーという3段階の業務について

辻:テレビシリーズを例に簡単に言えば、制作進行は一つの話数の進行を管理し、作画さんのアテンドや、上がってきた素材を次のセクションに回します。制作デスクは全話数を管理する立場で、それぞれの話数が問題なく進行しているかをチェックします。プロデューサーは立ち上げから全話数納品までの全てを管理する立場で、クオリティ面や予算面の調整といった業務も担います。
私もひととおり経験しましたが、制作進行が一番楽しいと感じます。自分が担当する話数は、どんなクリエイターに頼もうか、どんなスケジュールで進行しようかなど、思い描くことを自分の裁量で実現できます。上の立場になるほど、作品全体を考えなくてはなりませんが、制作進行は1カットや1シーンの細部にまで情熱を傾けることができるからです。
賀部:そうですね。個々のクリエイターさんともっとも密接にやり取りできるのは制作進行なので、コミュニケーションも楽しいですね。制作進行のときにどれだけいろいろな人と関わることができたかが、その後、立場や役割が変わっても大きく影響するので、そこを意識して取り組むことはとても大切だと思います。

プロデューサーという立場になって大事にしていること

辻:一番は視聴者に喜んでもらえる作品が完成するように、スタッフィングを考えている点です。そして、制作現場が最後まで走りきれるように調整することも大切だと考えています。特に、スケジュールとクオリティ、予算のバランスが崩れないように気をつけています。例えば、クオリティにかける比重が大きすぎてしまうと、どうしてもスケジュールや予算面に負担が生じてしまいます。なるべく全体のバランスをとって、作品にとって適切な状態になるよう心がけて調整しています。
賀部:私はご一緒するスタッフに長年お付き合いしている方が多いので、やはり大事なのは人との繋がりや信頼関係だと感じています。真摯に作品に向き合ってくださるスタッフの皆さまは、いつも良いお仕事をしていただけると信頼していますし、その上がりを誰よりも先に見られることはすごく嬉しいです。その方たちのためにも、作品制作においての意向はなるべく実現できるようサポートすることを心がけています。そのようにお仕事を続けることで、また次も一緒に仕事をしたいと言っていただけるような信頼関係を築いていければ、と思っています。

他社からの転職時に会社にもった印象

他社からの転職時に会社にもった印象

辻:作品で一緒になった方々と自然と仲良くなっていき、違和感なく馴染めましたね。アニメ業界は、CloverWorksに限らず業界内で転職することが多いので、中途入社に対しての拒否反応もありませんし、自然と開かれた空気感ができているのかなと思っています。その雰囲気は新入社員に対しても同様です。
賀部:私が転職する頃、前の会社も含めほとんどの会社はまだ制作進行が「外回り」をしていました。「外回り」とは自分たちで社用車を運転し、他社スタジオやクリエイターの作業場をまわって素材をやり取りする業務です。その配送業務にいち早く外部業者を取り入れていることに驚きました。最初は自らクリエイターの元に出向いて、素材の受け渡しなど直接コミュニケーションをとるのが当たり前だと思っていたので戸惑いもありましたが、今ではクリエイター側も業者に依頼する流れが当たり前となり、制作進行が「外回り」に業務時間を充てる必要がなくなりました。
辻:昔は「外回り」のために、制作進行には自動車免許が必須でしたからね。CloverWorksでは免許がなくても問題ありません。当時は労働時間の半分以上が「外回り」ぐらいの感覚でした。というのも単純に昼間の東京の道は混んでいますし、夜型のクリエイターも多いので、「夜に作業をして、朝までに上がりを出しておくから」と言われたら、朝4時や5時に合わせて回収に行かなければならないことも日常的にありました。いまではそういうこともないので、働く時間を自分でコントロールしやすくなり、負担はだいぶ緩和されたと思います。

仕事と家庭を両立するうえで心がけていること

仕事と家庭を両立するうえで心がけていること

辻:私が心がけているのは、迷ったときは家庭を優先するということです。仕事をするうえである程度個々の裁量に任せていただけますし、ゆとりのあるスケジュールのなかで現場に迷惑をかけない状態なら、基本的には家庭の予定も意識してスケジュールを立てるようにしています。また、打ち合わせなどは午後に開かれることが多い業界なので、私は午前中を家族の時間に充てるようにもしています。子どもを送って行ったり、買い物をしたり、掃除をしたり。
賀部:私も家庭をもって10年ほどになりますが、子どもが産まれてからの期間はまだ短いです。仕事と両立するためにとにかく一生懸命日々をこなしているのが現状ですが、いま辻さんのお話をうかがって、これからの参考にさせていただこうと思いました。
辻:子どもの行事は1度しかないですからね。
賀部:本当にそうですね。
私は午前中の使い方が辻さんとは違い、子どもを送ってそのまま出社するので、午前中には会社にいますね。今まで夜やっていた雑務をその時間に片付けるようにして、夕方には子どものお迎えに行くという生活をしています。一部在宅勤務も取り入れています。コロナ禍を経験したことで在宅勤務という働き方も取り入れやすくなりましたし、外部の方たちにも理解していただきやすくはなりました。これから業界全体としても、時間をうまく使って仕事をする人たちをもっと評価してもらえると良いと思っています。工夫して働き、きちんと作品を納品して結果を出せる人が評価され、活躍できる人が増えていけば、アニメ業界でも多様な働き方ができると広く感じてもらえようになるのかなと思います。また、CloverWorksではまだ女性のプロデューサーが他にいないのが現実ですが、私が育児と仕事を両立することで、後輩たちに女性も制作の仕事を続けられるんだと思ってもらえるよう前例になれればと考えています。

アニメ業界を目指す方たちへ向けてメッセージ

辻:制作進行の業務内容を考えても、以前していた「外回り」がなくなったり、デジタルのやり取りが増えてきたり、私がこの業界に入ってから20年ほどの間でも環境や技術が日々変わっています。このような変化にも順応できる人を求めたいと感じます。アニメの作り方は会社に入ってから勉強すればいいですし、アニメの知識が豊富な人だけが優遇されるわけでもないので、適応力の高さを身につけてほしいです。
賀部:仕事に真面目であることは大切なのですが、目の前のことばかりに捉われるのではなく、視野を広くして心に余裕をもって働いてほしいです。さまざまな事情で自分が想定した通りに物事が進まず、行き詰まってしまうことも多いですが、そんな時に客観的に見直したり、視点を変えてみたり、趣味などで自分のストレスを発散できる人はうまく順応していけると思います。
辻:CloverWorksでお待ちしています。

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INTERVIEW

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