SPECIAL
STAFF INTERVIEW
李 聖淵×劉喆×林 書揚
制作グループ×クリエイティブグループ 美術ルーム
日本でアニメ制作に関わる自分たちが思うこと
アニメの現場を志望した理由と、CloverWorksに入社されるまでの経歴を教えてください。
李:韓国のテレビでも日常的に『クレヨンしんちゃん』や『カードキャプターさくら』といった日本のアニメが流れていました。幼いころからそれらを観て育ったのでアニメは身近な存在でしたが、中学校の先生がアニメ好きで『鋼の錬金術師』を観せてくれたときに衝撃を受けました。そこからはアニメに完全にはまってしまい、アニメ関連の仕事をしたいと思うようになりました。ただ、そもそも私は絵が下手なので、絵を描けない人がアニメの仕事をするにはどうすればいいかを調べたところ、制作進行という仕事があることを知りました。それなら制作進行になるしかないと思い、その勉強をするため兵役を早めに済ませて日本の専門学校に留学しました。卒業後は一度韓国に戻り、韓国のアニメ会社で制作進行としてキャリアをスタートしました。5年ほど働いたのち、CloverWorksのスタッフとして仕事をするため再び来日し、現在も制作進行として働いています。
劉:私は中国で4年制の大学を卒業してから漫画家になりたくて日本に来ました。まず専門学校に入って絵の勉強をしていたのですが、その学校の卒業制作で自主アニメ制作に参加することになったんです。ところが制作中にさまざまなトラブルがあり、結果的に期限までに完成させることができませんでした。そこで初めて、スケジュールを管理する人がいないとアニメは完成しないんだと気づき、アニメの制作進行を目指すようになりました。卒業後、日本で中国の方が社長をしているアニメ制作会社に入社して2年間働き、3年目に関わった作品で縁あってCloverWorksに入ることになりました。
林:私は李さんや劉さんと違い、クリエイターとして新卒採用でCloverWorksに入社しました。台湾では普通の高校に通っていましたが、卒業後の進路が決められずにいました。そのうちだんだんと絵を描くことに興味がでてきて、漫画家になりたいという夢を抱くようになりました。絵画教室に通って本格的に絵を勉強し、日本の専門学校でさらに勉強することにしました。その専門学校の先輩が卒業制作でアニメを作っており、手伝わせてもらったときに初めてチームで作品を作ることの楽しさを知りました。自分が必要とされることも嬉しくて、そこからアニメの仕事に興味をもち、背景が描きたくてCloverWorksの美術ルームに入社しました。
それぞれ異なった経緯でCloverWorksに入社されたわけですが、入ろうと思った理由と入ってみたときの会社の印象をお聞かせください。
李:韓国の制作会社で働いていたとき、日本の会社と一緒に仕事をする機会がたくさんありましたが、そのなかでもCloverWorksは目指しているところがはっきりしているうえ、それが実現できている会社だと感じていました。当時は『ダーリン・イン・ザ・フランキス』など自分好みの作品がたくさんあったこともあり、CloverWorksに入りたいなと思いました。実際に入ってみても印象はあまり変わりませんでした。もちろんスケジュール的に大変な時期もありますが、社内には心に余裕がある優しい人が多いです。自分が作りたいと思い描いているアニメ制作をやるにはここが一番適したところだと今でも感じていますし、経済面も含めてこの会社に入社できてよかったなと思います。
劉:私が以前働いていた会社は下請けが主だったので、クリエイターとコミュニケーションを取ることより、素材とにらめっこしながら作業している感じでした。でも、元請けの仕事をしたときに監督が自分の意見を聞き入れて作品に反映してくださることがあり、「自分もクリエイトしている」という感覚を味わえました。それが嬉しくて、せっかくアニメ業界にいるなら、元請けの制作会社で仕事をしたいと思っていたところ、CloverWorksと縁あって入社することになりました。ちょうど引っ越しをしたばかりで家からオフィスがすごく近く、それもCloverWorksに決めた理由のひとつです(笑)。入社後は「中途採用の社員がこんなにスムーズに馴染めるんだ」とびっくりするくらい、自然に受け入れてもらえました。入ってすぐに制作が佳境の作品に関わることになったので、最初はかなり大変でした。でも、その制作が終わったら一気に余裕ができたので、忙しさの波の大きさにも驚きました。あと、CloverWorksはさまざまなジャンルの作品を手がけていて、制作班が変わると作風までガラッと変わるので、違う会社に入ったんじゃないかと思うぐらいのギャップを味わうこともあります。それもCloverWorksの特徴であり楽しいところでもあります。
林:外国人が日本で就職するためには就労ビザが必要ですが、なんとなく大きな会社に入社したほうが申請が通りやすいイメージを持っていました。そういった現実的な観点から背景美術を扱う大きな会社を探しました。試験結果の連絡がすごく早かったこともよく覚えています。大阪の専門学校に通っていたので、採用試験のために大阪から東京まで新幹線で移動していましたが、面接が終わって大阪の家に着く前に「面接に受かりました」という電話が来たんですよ(笑)。対応がすごく早かったのも、この会社に決めた理由のひとつです。入社後に感じたのはすごく自由だなという点です。私が最近携わった『ぼっち・ざ・ろっく!』という作品では実写の映像を使ったり、他の作品のオマージュを入れたりして、スタッフのみなさんも楽しみながら作品に関わっていることが伝わってきました。CloverWorksでないと、そういう作品も生まれてこないだろうなと感じています。
現在の仕事を進めるなかで、やりがいや楽しいと感じる瞬間はありますか?
李:私は最近『SPY×FAMILY』という作品に携わったんですが、街中のどこに行っても『SPY×FAMILY』を目にするような気がします。出かけたときもアーニャの人形を持っている人を見かけますし、自分も携わった作品が世間に広がっていって、いろんな人が喜んでくれているんだと実感して嬉しいですし、やりがいを感じます。アニメを作っている最中は楽しいことより大変なことのほうが多いです(笑)。それでも苦労して作り上げたものを納品したときは一気にその苦労から解放されて、嬉しさを感じます。
劉:さきほどもお話した専門学校の卒業制作では、まわりが完成したムービーを展示しているなかで、自分たちは制作途中の素材をスライドショーのような形でしか展示することができず、すごく悔しかったという記憶があるので、きちんと作品を納品できたときは充実した気持ちになります。配達員や運転手のような感覚で、納品までは自分が安全に運ぶことを心がけて精一杯仕事しています。ただ自分のゴールを目指して頑張っていますね。
林:私はアニメの背景を描く仕事ですが、最初は当然描いたものがそのまま使いものにはならず、美術監督からリテイクを受けたり修正してもらいながら学んでいきました。でも最近はリテイクを受けることも少なくなり、自分が描いたものをそのまま使われることも多くなって、自分の成長が感じられて嬉しいです。近ごろは難しい内容もどんどん任されるようになってきて、技術が向上したことや、信頼してもらえていることが実感できて嬉しいですし、とてもやりがいを感じます。
外国籍であることで苦労されたことや、逆に利点になったという経験があればお聞かせください。
李:今までで一番の苦労というより印象的だったことは、日本で仕事をはじめて間もないころ、初対面なのに「外国人とは仕事をしません」と社外のクリエイターさんから言われたことです。日本のアニメは世界一だと思いますし、クリエイターのみなさんもそういうプライドをもって仕事をされているので、その方はきっと過去に外国人と仕事をして苦い経験があったんだと思います。でも、私がどういう仕事をしているのかもわからないうちに、外国人というだけで判断されたのはすごく残念でした。でも、それ以外は外国人だからと苦しんだことはあまりないですね。特に近年は日本で働く外国籍の方も多くいらっしゃるので、それによって偏見をもたれることも少なくなりましたし、仕事的にはメリットがたくさんあると思います。アニメ業界は常に人手不足なので、どの会社でもクリエイターの取り合いになっていますが、僕は韓国人なので、韓国のクリエイターに営業をかけやすいという利点があります。やはり言語が通じるほうが相手は安心してくれますし、他の制作が見つけられないところに営業をかけることができます。
劉:私も李さんと同じく外国語を話せることはメリットだと考えています。日本語が話せないクリエイターに参加していただくときには通訳として召集されることもあり、それは自分にしかできない仕事でもあるので、頼られている喜びとスキルが活かせる充実感があります。日本語があまり得意ではないクリエイターとやり取りするときには、母国語で話しかけると結構本心を言ってくれることもあります。「なぜ期限が過ぎてしまったの?」と日本語で聞いたときは「いろいろあって」とごまかしていた人が、母国語で聞いてみると「実は他社の作品を優先していました」など(笑)。本心を話し合えるのも外国人同士ならではだと思います。僕は李さんのような嫌な経験はしなかったので、そういうことを言う方はごく少数ではないかなと思っています。
林:私は制作進行の方ほどいろいろな人に関わることはありませんが、それでも苦労したことといえば、同僚と話すときに昔のアニメの話が通じづらいことでしょうか。小さいころから日本のアニメは観ていましたが、母国語に吹き替えたものを観ていたので、作品名やキャラクターの名前が違うんです。『ドラえもん』の、のび太の名前が「野比のび太」だということも日本に来て初めて知りました(笑)。日本語をきちんと勉強する前に見ていたアニメは、タイトルも母国語のバージョンで覚えているので、たとえ観ていた作品の話をしていても、話題についていけないことがありました。私の苦労話はそれくらいです。きちんと絵が描けて普通にコミュニケーションを取ることができれば、まったく問題ない仕事だと思っています。
お仕事をする上で、どんなことを大事にしていますか?
李:制作進行はカットを運ぶ単純な仕事だと考えている人もいると思いますが、実際は作品のクオリティに大きく関わっています。クリエイターを探すことはもちろん、制作進行のスケジュール管理によってクオリティが左右されます。実際作業をするのは各セクションのクリエイターですが、そのなかで制作進行は潤滑油としての役目を担っていると思います。クリエイターに制作側の事情を押しつけず気持ちよく働ける状況を作り出す、それが制作進行の役目であり、その働き次第で作品のクオリティが変わるといつも意識しながら仕事をしています。
劉:制作進行が潤滑油であるというのは、まさにその通りだと思います。クリエイターからの指示はだいたい制作進行に集約され、制作進行から他のセクションに伝達することが多いからです。情報を過不足なく伝えなくてはいけないのですが、そのまま伝えるだけではなく、きちんと解釈してわかりやすく伝えることが大事だと思っています。伝達が上手くいかなかったために制作したかったものからズレて完成してしまうことが最も良くないので、それだけは避けたいと常に思いながら仕事しています。
林:おそらく絵を描く人はみんなそうだと思いますが、自分の描く絵にはプライドをもって取り組んでいて、妥協せずできるだけ最高のものを描きたいと思っています。ただ、もちろんそれ以前に仕事の締切が大事です。締切に間に合わなかったら、いくら良い絵を描けても意味がなくなります。自分ができる最高のものを作りたいという気持ちと、締切を守るという気持ちの間で折り合いをつけながら進めることが難しいと感じます。そこは入社して4年目の今でも悩みながら取り組んでいるところです。
これからアニメ業界を目指す学生や留学生に向けてメッセージをお願いします。
李:制作進行は各セクションのクリエイターの中心となりコミュニケーションを取って進める仕事です。同じ制作チームのメンバーとも連携を取る必要もあります。そのためにはコミュニケーション能力が大事になり、特に外国人には厳しい現実ですが日本語ができないと難しいお仕事です。現場では常に日本語能力と戦わないといけないということを覚悟してもらいたいです。ある程度の日本語でも可能ではないかと思うかもしれませんが、それでは制作進行として働くのは難しいです。さきほど劉さんがお話していたように、正確な日本語で各セクションに情報を伝えられなければいけないので、外国人のなかで日本語が流暢というレベルではなく、日本語をきちんと理解できる能力と、自分が思っていることを日本語で正確に伝える能力は必須です。逆に言うとそれがクリアできれば働ける仕事だと思います。コミュニケーション能力が重要なのは日本人も同じですし、制作進行の仕事は会社に入ってからその会社のやり方を身につければ何も問題ありません。頑張って志望してほしいです。
劉:外国人が日本で制作進行として働きたいのであれば、まずは日本語を勉強することが大事だと思います。やはり理解していただきたいのは、まず、言葉でコミュニケーションがとれないとどうしようもないということです。言語は絵と同じく一朝一夕で身につくものではないため日々の努力は怠らないようにしないといけません。そしてこれは国籍に関係ないですが、仕事を始めて間もないころは、何かミスをしてトラブルが発生したときに怒られるのが怖くて言い出せないことがありますよね。しかし、問題が発生したときはすぐ報告し解決に動かないかぎりは自然にトラブルが消滅することはなく、問題点はどんどん膨らんでいくばかりです。自分でこっそり解決しようとしても、特に新人はそんな能力も経験もないので、しかるべき人に相談しなければ永遠に解決しません。仕事をするうえではミスは隠したりせず、早めに報告や連絡をおこなうように意識してもらいたいです。頑張りましょう。
林:私はクリエイターなので、制作進行ほど日本語を使いこなせていなくても、きちんとコミュニケーションがとれるレベルであれば大丈夫だと思うところはあります。私が学生と社会人の違いとして痛感するのは、学生のころは過程が評価されましたが、社会人では評価されるのは結果です。仕事を始めて間もないころは難しい内容がなかなか描けなくて、一生懸命やっても求められるクオリティに達することができませんでした。しかし新人だからできなかったという言い訳は作品の制作では通用しないため、つらい思いをしたこともありました。それでも少しずつ仕事を楽しめるようになっていますし、いまでは難しいことを任されるのも嬉しいです。いろいろな経験を力に仕事を楽しめるようになってほしいというのが、これから業界を目指すクリエイターに期待することです。待っています。